Addict -中毒-




いくつになってもまるで若い頃と代わりなく仲良さそうな夫婦が羨ましかった。


その産婦人科教授と蒼介の介入があって、話は私を苛めることから遠ざかった。


再び料亭や絵画、調度品の話に戻って、話に頷きながらも私は蒼介をりらりと見た。


蒼介は私と視線が合うとぎこちなく顔を逸らす。


もともとこうゆう華々しい場所は苦手だからか、それとも堅苦しいスーツに疲れているのか、それとも苦手なアルコールに酔ったのか。


いつもより疲れたような青白い顔色をしている。


「あなた、少し休んできたら?」


そっと耳打ちするも、


「いや、大丈夫…」とぎこちなく返してきた。


勘の良い人が見れば私たちのこのぎくしゃくした空気に気付くはずだ。


少しだけ空いた距離を詰めようともせず離れようともせず、夫婦が同じ輪に居るのに視線を合わせようともしない。


けれどそのぎくしゃくに気付く者は居なかった。


みんなそれぞれ話に夢中だからだ。


それから数十分つまらない自慢話を聞いて、私は「失礼します。ちょっとお手洗いに」と席を外した。


夫人たちの輪の中心には産婦人科教授が居て、彼のおもしろおかしい“ネコの出産”に笑い声を上げていたので、誰も私が抜けることに顔をしかめなかった。


あら、そう言えば産婦人科教授の奥様がいらっしゃらない。


会場を見渡してもどこにもいらっしゃらないから、きっと私のようにお手洗いかと思っていた。


着慣れているはずの和服なのに、今日は妙に肩が凝る。


肩を揉み解しながらお手洗いの表示に向かっていくと、喫煙ルームと書かれたガラスの小部屋の中に先ほどの産婦人科教授の奥様がいらっしゃった。


私も彼女も互いに姿を目に入れて、「あら」と目を開いた。


それでも見なかったフリでお手洗いに向かおうとすると、喫煙ルームの引き戸が開いた。


「退屈なお話、ごくろうさまです。一本どうですか?」


タバコの箱をこちらに向けられて、


「いえ、私は……」と断ろうとしたがその手を止めた。


「いただきます」


何故彼女の誘いに乗ったのか、




でもこのときの彼女の表情が、私の中の“女の勘”と言うものを刺激したに違いない。


それとも長くホステスなんてやってたから、誰かが何かを話したがっていることを本能的に気付いたのか…




そう




彼女は話したがっている。



聞いてほしいのだ―――