今頃何をしてるのか。
生きてるのかどうかも謎だ。
時間はたっぷりあるのに、それでも、前のように啓人の行動を気にすることはなかった。
そんなある日。
バレンタインを目前としたある日の昼間。
この日は蒼介の大学の教授会の親睦会があるという事で都内のホテルで、蒼介の勤める病院の教授とその家族たちが集まった。
実に50人と言う大規模だ。
そのうち実際の教授は半数にも満たない。
教授と言う肩書きからやはり、年齢層が高く未婚者の方が少ないのだ。
ここでの“妻”は教授たちにとってアクセサリー。
誰もが無言で、自分達の妻がいかにできが良く、いかに育ちが良く、いかに美しいかを自慢し合うのだ。
妻たちもいかに夫が優れているのか、いかにその地位が素晴らしいのか自慢大会だ。
話はもっぱら旅行の話、最近買った高価な絵画や宝飾の話…セレブだけのつまらない会話だ。
蒼介からこの話を出されたとき、
「気が乗らないのなら行かなくてもいいよ」と彼は気を遣ってくれた。
正直気は乗らない。
でもその話をどこからか聞きかじった義母から
「行きなさいよ。妻同伴のパーティーに妻が欠席なんて、裏でなんて噂されるか。
蒼介の立場ってのも考えなさいよ」
としっかり釘を差された。
義母に言われなくてもそのつもりだった。
二人のこれからをまだはっきりとした返事をしていない私ができることと言えば、蒼介のサポートをすることしかない。
広いように見えて実際は狭くて特殊な世界だ。
蒼介は医学部長になりたいと思っていないようだから、“離婚”はそれほど彼に響かないが。
それでもやはり周りの教授たちやその奥様方から、
「妻が外に若い男を作って、離婚」なんてことを知ったら刺激に飢えてる彼らの格好のネタになるのは間違いない。
病院もまた一つの社会。私たちが理解できないような特殊な社会。
つまはじきにされては、あの場所で生きていかれないだろう。
そんなことが
目に見えている。



