それでも萌羽が好いてくれているという事実はありがたかった。
萌羽がいてくれなければ、きっと私…こんな風に心を鎮めることなんてできなかった。
私は―――誰かに向き合うと言うより
自分に向き合わなくてはならないのだ。
―――
萌羽のマンションを訪れてから一ヶ月が過ぎた。
これと言った仲直りのようなものはなかったけれど、その後私は萌羽の体調を気にかけるつもりで何度か連絡をした。
最初はぎこちないやり取りを交わしていたが、時が経てば徐々にその不自然なぎこちなさが緩和されていった。
彼女は今体調も戻り、今は店に復帰していて変わらずナンバー1の位置を守り抜いているとか。
そして少し驚いたのが、あの私に噛み付いてきたアキヨが店を辞めたと言うことだった。
どうやら結婚するらしい。相手はエリート商社マンだとか。
『自慢げに婚約指輪を見せびらかせてたわ。御曹司のことは最初から存在すらなかったかのようよ』
と、ちょっと皮肉そうに笑っていた萌羽。
それでも
『姉さんの方はどうなの?離婚は?』
この話題になると、言い辛そうに言葉を濁す萌羽。
義母の入院が長引いていてそれどころじゃないことを説明すると、
『長引かせると良くないかもね』と言った。
分かっている。
それでもそのことについて、私から話題に出すことを憚られた。
蒼介は結局あれ以来―――家に帰ってきてはいない。
たまに着替えなんかを取りに戻ってきてはいるようだが、私が不在の頃を見計らって。
自分の家なのに、まるで彼の方が居候のような気遣いをしている。
啓人からは―――連絡は
ない。



