「蒼介は―――啓人のことが好きだったら彼の元へいけばいいし、離婚にも承諾する。
そうじゃなかったら今までどおりにしようって、言ってきたわ」
萌羽は細めていた目を一層細めて、眉間に皺を寄せると視線を険しくさせた。
「私もバカだけど、あの男はもっとバカね」
嫌味たっぷりに「はっ」と笑うと、萌羽は再びタバコを口に含んだ。
その蓮っ葉な物言いが萌羽には、何だかひどく不釣合いだった。
「それとも姉さんにそれほど愛情がなかったのかしら」
「……それは分からないわ」
頷いて、私も無性にタバコを吸いたくなった。
もう何年も前にやめたはずなのに、萌羽の副流煙にまたその感覚がじわりじわりと戻ってくる。
それは中毒のように。
「で、姉さんはあの御曹司に行くの?」
当然のように聞かれて、私は戸惑った。
「……そうするつもりなんて…ないわ」
啓人だって迷惑に違いない。そんなことあの男は本心で望んでなどいない。
「じゃあご主人と何もなかったように変わらず結婚生活を続けるの?」
またも聞かれて、私はそれにもゆっくりと首を横に振った。
何も無かった―――そんな風に続けられるわけはないのだ。
「じゃぁどうするつもり?」
萌羽がじれたように聞いてきて、私は思わず眉を寄せた。
萌羽がまだ半分ほどのタバコを灰皿にもみ消した。
萌羽は僅かに身を乗り出すと、私の手をそっと握ってきた。
顔色とは反対で、その手は熱を持ったように温かかった。
いつかの夜、同じように手を握ってきた感触をふと思い出す。
「あの男と離婚して、あの御曹司とも切って―――
それで私と一緒に暮らせばいいじゃない。
私は姉さんに寂しい想いをさせない。
姉さんを傷つけることなんてしない。
恋人同士ってのは無理かもしれないけれど、本当の姉妹みたいに仲良く暮らせれば
それでいいじゃない」



