「どうするべきか―――」
蒼介の返事が暗闇の中で返ってくる。
その声は抑揚を欠いていて、感情を感じられなかった。
表情が見えない分、余計に色々な想像を巡らせてしまう。
今すぐ離婚を言い渡されても致し方ないけれど、やはり『離婚』とたった三文字を蒼介の口から聞くのが怖かった。
「火を……明かりを…つけなきゃ、これじゃ話しもできないわ」
私は近くにあったライターを手探りで手繰り寄せてライターのホイールを摺った。
頼りなげなオレンジ色の明かりの中、ぼんやりと青白い蒼介の顔が浮かび上がる。
だけど目だけは異様な程黒い光を湛えていて、私は一瞬だけその視線から目を逸らした。
その頼りなげな光の中、それでも蒼介の言葉ははっきりと空気を震わせて響いてきた。
「浮気のことは僕に咎められない。
僕が君に寂しい想いをさせていたと気付かされた。萌羽さんがそのことを教えてくれた。
その彼とどうしても一緒に居たいのなら、僕と離婚してその彼と付き合ってもいいと思う。
僕と一緒に居たいと思ってくれるのなら、その彼とは切ってほしい。
僕の意見はそれだけだ」
蒼介―――
薄暗がりの中に浮かび上がる蒼介の顔は、もう私の方を向いていなかった。
視線を逸らすように俯いて、眉間に手をやっている。
まるで私の視線から逃れるように、私の視線を遮断するかのように。



