「数週間前……そうだな、君がパーティーに行った直後ぐらいだったか、
彼女が研究室に訪ねてきて…」
言い辛そうに蒼介が俯く。
だけどすぐに顔を上げて、心配そうに眉を寄せた。
「彼女を責めないでやってくれ。悪いのはそのことを言い出せなかった僕だから」
私はゆっくりと首を横に振った。
いいえ
悪いのは
――――全て私
私以外は、誰も悪くないのだ。
「ごめんなさい」
たった一言、謝るにも謝り切れないけれど、この言葉しか今は思い浮かばない。
蒼介はゆっくりと顔を横に振った。
無理やりといった感じで、強引に笑顔を浮かべている。
あのぎこちない笑顔の理由はこれだったのだ。
妻の不貞を知ってしまっても、それを言い出せずずっと悩んでいたのだ。
どちらかの吐息で、小さくなったキャンドルの火がゆらりと揺れ、ほんの小さな灯火はやがて完全に消えてなくなった。
あとに残ったのは、暗闇と静寂だけ。
「これから―――どうするべきか、話し合わないとね」
その沈黙の中、私は決意をしたように口を開いた。
ずっと遠まわしにしていた問題から、目を背けては生きてはいけない。
いつかは―――受け入れて、乗り越えていかなければ
生けない。



