蒼介はその黒い双眼を見開いて、私を見つめてくる。
唇を結び息を止めてひたすらに―――
その真剣な目をまっすぐに見つめられなかった。思わず顔を逸らして呟く。
「あなたは気付いていないかもしれないけれど、私―――…」
「知ってたよ」
私の言葉に蒼介が言葉を被せた。
それははじめて私が聞く声だった。
低くて、感情が読み取れない淡々とした声。
機械的と言ったほうが正しいかしら。
「………何故?」
あれこれ聞きたかったのに、出てきた言葉は実にシンプルなものだった。
「僕が何も知らない鈍感でバカな男と思ったかい?まぁその通りなんだけどね」
蒼介は自嘲じみて笑う。
「本当に馬鹿だよ。数週間前に聞かされるまで……それも赤の他人から……
僕は君の異変に全く気付かなかった」
本当に……大ばか者だよ。
蒼介はそう続けた。
私はゆるゆると首を横に振った。
あなたはバカなんかじゃない。ただ純粋で、真面目な人だから―――
でも、それは言葉にはならなかった。
何を言っても私の言葉なんてきっと嘘に聞こえるだろうから。
偽りだらけの台詞だと思うから。



