それでも私はその妙な表情に気付かないふりをして
「何かしら。開けていい?」
と無邪気を装ってにこにこ聞いた。蒼介がくれた紙袋は大きさこそなかったものの、高価な感じのする箱が入っている。
「いいよ。僕のも開けていいかな」
「どうぞ、あら…―――素敵……」
箱を開けて私は目をまばたいた。正方形の小さな箱にペンダントが収められている。
華奢なプラチナチェーンのトップには、八分音符を象ったモチーフが通されていた。
その一つの符頭に、ダイヤモンドがあしらってある。随分と洒落たデザインだ。
蒼介が選んだのかと思うと……いいえ、きっと凄く悩んだに違いない。
一生懸命に考える、その姿を想像して私は思わず笑みを浮かべた。
「ありがとう、蒼ちゃん」
蒼介ははにかみながら笑うと、
「僕の方は……マフラー?あったかそうだ。色もいいね」
深いボルドー色をしたマフラーを包みから取り出した。
「本当はあなたの名前の一部になっている蒼色にしようかと思ったのだけど、赤い方が顔色良く見えるし。
良く似合うわ。“カーディナル”の赤いケープのようよ」
バーでたまに頼む。“カーディナル”と言うカクテル。
赤いワインにカシスを混ぜたあの独特の深くて鮮やかな赤い色はどこまでも高潔で美しい。
「カーディナル?」
「“枢機卿”と言う意味よ。カトリックの高位聖職者のこと。あなたにぴったりじゃないかしら」
微笑んだつもりが、どこかぎこちなくなってしまった。
蒼介のことを見られない。
そう、私にとって蒼介はカーディナル。
純粋で高潔で―――慈悲深い人。
だから尚さら、傷つけてはいけない。
これ以上、傷つけられない。
「蒼介―――私、あなたを裏切ったわ」



