12月24日。
聖なる夜、クリスマスイブ―――
愛する人と過ごす甘い夜を演出するため、私はこの日の午後から準備に勤しんでいた。
蒼介は何故急にクリスマスイブを一緒に過ごそうと思ったのだろうか。
何故萌羽は逃げるように立ち去ってしまったのだろうか。
啓人―――
『待ってるから』と言っていた。
行けるかどうか分からないのに……
まぁ、そもそもその言葉自体メールだったからどこまで本気か分からないけれど。
たぶんさっさと代わりの女を見付けて、ちゃっかりキープしたって言う席に座らせてるわよね。あの様子じゃ。
『勘違いしてもいいよ』
嘘ばかり。
そんな考えを打ち消すかのように、私は手を動かせた。
いつもは何も掛けてないダイニングテーブルに、今日だけは真っ白のテーブルクロスを掛けて、中央にクリスマスらしくポインセチアを飾ってみる。
クリスマスツリーがないから、その代わりに。赤い花が白いテーブルクロスに良く映える。
クリスマスケーキも買ってきたし、長いキャンドルを蜀台にセットもした。
シャンパンはよく冷えてるし、グラスも二つ並べた。
ピーピー…
オーブンがセットした時間を報せるアラームを鳴らして、キッチンから香ばしい香りが漂ってくる。
七面鳥なんてはじめて焼いた。照り焼き風に味付けしたけれど香りだけならおいしそうにできたんじゃないかしら。
七面鳥が乗った鉄板をオーブンから取り出しているときだった。
「ただいま。やぁいい匂いだね。メリークリスマス」
蒼介がコートを脱ぎながら、リビングに顔を出した。
「メリークリスマス。蒼ちゃん、早かったのね」
ミトンを外して手を拭うと、私は蒼介のコートを受け取った。
「クリスマスだから」
そう笑った蒼介の顔は、やっぱり無理していそうな表情だった。



