カンっ
私が打った球は啓人の打った球とは違って随分と乾いていたけれど、随分と間抜けな音に聞こえたけれど
それでもバットの中間地点で当たった感触がして、ジンと腕に痺れが伝わってきた。
「……当たった…」
ボールはちょうど真ん中に飛んで行き、すぐに速度を落として落下したけれど
はじめての野球でバットに当てることができた喜びに私は思わず呆然。
「…当たったわ」
「うん。当たったね~」
と啓人はのんびり。
「当たったわ!啓人!やった」
啓人を振り返って、人目があるのも憚らず思わず思い切り抱きしめると、
「やったぜ、紫利♪」と啓人も私をぎゅっと抱きしめ返してくる。
またどさくさに紛れて呼び捨てだし……
でも
「やった、やった!」とまるで子供のように笑いあい、私たちは抱き合いながらも飛び跳ねた。
この日私が打てたのはあとにも先にもこの一本だけ。
でも、何だか凄く充実して楽しかった。
あとから考えれば笑っちゃうような出来事だけど。たった一球当てたあの喜びは一言では言い表せないものだった。
久しく忘れかけていた感覚が―――まるで高校生のときのように青くて清々しい感情を思い出させてくれた気がした。
それはとても貴重で、輝かしい想い出の一ページ。
ありがとう、
啓人。



