「まぁまぁ。そう怒るなよ。美人が台無しだぜ?紫利さんは怒っても綺麗だけど」
啓人がチャラけて笑って、向けられたバットの先を手で払い私の後ろに回りこんできた。
何をするかと思いきや、背後から手を回してきて私のバットを握る手に重ねる。
「バットを振るときに力はそう必要ない。用は打つタイミングと当てる場所だけで女性でも飛ばせることができる」
啓人がそっと囁いて、私の手をぎゅっと握りバットを振り上げた。
啓人の香りを間近で感じる。爽やかで男らしい……
大人の男を感じさせる香りに包まれて、その香りが私の纏う香りと合わさって不思議な香りを生み出している。
飲んでもいないのに、くらくらとその香りに―――酔いそうだった。
マシンからボールが飛び出るランプに灯りが点った。
数秒もしないうちにボールがこちらのバッターボックスに向かって飛んでくる。
「ボールを良く見て。
怖がらず。
目を逸らすな」
怖がらず
目を―――
私は啓人に言われた通り、かなりの速さで飛んでくるボールから目を逸らさなかった。
啓人の力が加わり、私の手を押し出すように振り上げた。
無我夢中で啓人のアシストを受け、私はバットを振り上げた。



