思えば、こんな風に心の底から楽しんでいるのは随分久しぶりな気がした。
啓人と居ても、二人の関係にいつ終わりが来るのか、そんな不安ばかりを抱えていた気がする。
ドキドキもした。愛おしいとも思った。
だけどその反面、いつも年下の男に振り回されないよう、背伸びをして気丈に振舞っていた。
でも今は―――
色んなしがらみから解放されて、心からこの状況を楽しんでいる。
1セットを終えて、啓人がバットを持ちながらネットをくぐってきた。暑そうにして捲くったワイシャツの裾で額を拭っている。
啓人の綺麗な筋肉のついた腕から、少年のような無邪気な笑顔がちらりと覗き、
「紫利さんもやってみる?」
と聞かれた。
「やれるわけじゃないじゃない」
私は慌てて手を振った。
「やる前からやれないなんて後ろ向きなこと言うなよ。何でもチャレンジ、チャレンジ」
と強引にバットを握らされてバッターボックスに押し込められる。
いえ、本当に無理だから。
と目で訴えるも、
「ほらほら。ぼぉっとしてるとボール飛んでくるぞー」とネットにしがみつきながら啓人が前を目配せしている。
啓人の言葉通り、すぐにボールが飛んできて、私はそのあまりにも速いスピードにまばたきをする暇もないぐらい、すぐ横をボールがすり抜けていった。
ボールが後方のネットに沈むのを横目で見て、私は硬直。
「大丈夫?」
さすがの啓人が心配そうにネットからバッターボックスに出てきて、
「こ、怖いじゃない!」
私は啓人を睨みあげると、バットを突き返した。



