Addict -中毒-



私の嫌がらせ(?)で一球目は逃したものの、二球目から啓人は連続してボールをバットに当てた。


野球やってたって聞いてたけど、正直私はここまで上手いとは思わなかった。


野球なんてルールすらはっきりと知らない素人の私の目から見てもそのフォームが綺麗だと思う。


次々とボールが飛び、十球打ち終わったときに啓人が肩を回しながらネットをくぐり、私の隣に腰掛けてきた。


「凄いじゃない」


素直に一言言うと、


啓人は「うーん、まだまだ。あんなぼてぼてのゴロじゃ点数になんないし」と言って遠くを見やる。私は良いと思ったけれど、啓人は自分のバッティングに納得がいってないみたい。


こうゆうとこ、結構好きよ。


自分の中のポリシーを曲げない。一切の妥協は許さない。


仕事に関してもだけど、ある一定の道に対して彼はストイック過ぎるほどまっすぐだ。


「でも感覚は掴めたし、次からは飛ばすぞ♪」と宣言してまたすぐに、バターボックスに戻っていく。


次のセットで、啓人は宣言通り、さっきの低い位置での返しよりも、高く遠くへ飛ばすようになった。


キン


カキーン


バットにボールを打ちつける音が心地良く響く。


細そうに見えるのに…いや実際細い方だと思うのに、そのバッティングは力強く感じた。


流れるように腰を捻り、腕を伸ばすそのフォームが




―――美しい




すぐ近くで同じようにバッティングをしていた中学生ぐらいの子供たちが揃って啓人の方を見やり、


「すっげぇ」と声を漏らしてネットにへばりついていた。


現役(?)の野球少年から見ても、その姿はかっこよく見えるものなのね。


「どうやったらあんな風にかっ飛ばせるのかな?」


「やっぱ身長差かなぁ」


少年たちが喋っているのを小耳に挟んだのだろう、啓人がバットを置いて横を見ると、


「少年たちよ。身長は関係ないぞ?打つときの腰がまだ高い。それを意識すればもう少し遠くまで行くぞ」


啓人は、にっと明るく笑って少年たちは慌てて頭を下げた。


お礼の意味らしい。


「やってみようぜ」一人が言い出し、しかしもう一人の少年が


「あ…でももうお金が…」と言って小銭入れを覗き込んでいる。


中学生ぐらいだものね。お小遣いにも限度があるだろうし。


でも熱心に取り組むその姿が何だかいじらしく、啓人のアドバイスを素直に受け取る姿が可愛くて、私は自分のバッグを開いた。