奥に広い建物内の側面にいくつか硝子の扉があって、細い通路を挟んですぐにバッティングの練習場が広がっている。
ネットで仕切りがしてあって、練習できるのは5レーンほど。その2レーンほどが客で埋まっていた。
通路に出ると手前の方のレーンで若いカップルが、そのもう少し奥で中学生ぐらいの男の子二人組みがそれぞれバッティングに励んでいた。
カキーン
手前のカップルの男の方が球を打ち上げるところだった。二人とも大学生ぐらいだった。
すだれのように下ろされたネットの手前で、ネットにしがみつきながら女の子の方が声を上げる。
「すっごぉい!タカくん!!♪」
女の子が明るい声で声援を送っている。彼氏の方は得意げになって彼女の方を振り返っていた。
可愛らしいカップルだ。素直にそういう感情を出せることが羨ましくもある。
「ケっ。なぁにが凄いだ。たかが80キロに。俺は110キロだ」
ここにも一人羨ましがっている男が。
「ホントはあんたも言ってほしいんでしょ?」
啓人は手馴れた手付きでマシンのコイン入り口にコインを押し込みながら、上目遣いで聞いてきた。
「紫利さん言ってくれるの?」
何だ…言ってほしいんじゃない。強がっちゃって。可愛いわね。
「『すごーい、啓人。かっこいい(←注:超棒読み)』って、私が言うキャラ?」
「あはは!まぁそうだよなぁ。例え思ったとしても、言わないだろうなぁ。紫利は天邪鬼だから」
天邪鬼って…ねぇ。まぁ当たってるだけに何も返せないけど。
それよりもまた、この坊やは勝手に呼び捨てにして。
「“紫利さん”!」
私がちょっと目を吊り上げると、啓人は全然堪えてない様子で、
「綺麗なお姉さんに「キャー素敵♪」って思われるようがんばります♪」
そう笑って通路に置かれたバット入れからバットを引き抜いて、上着を脱いだ。



