啓人が行きたいところと言っていた場所は、私の想像を180度裏切る場所だった。
期待していたわけじゃない。どちらかと言うとそういうことしかないのかと少し辟易していたから、良かったと言えば良かったが。
コインパーキングに車を停めたあとに、彼と歩きながら、だんだん近づいてくる灰色の小さな建物と緑色のネットがまるで空を覆いかぶすように広がった光景を目に入れて、
私は戸惑ったように啓人を見上げた。
「もしかしてここ?」
「もしかしなくてもここ~♪」
ご機嫌に言う啓人はにこにこ笑いながら、私の手を引いてその建物に入っていく。
カキィーン…
乾いた音がひっきりなしに聞こえるその場所は、
『バッティングセンター』だった。
「俺が一番輝くとこ♪まだ高校生デートは終わってないだろ?」
得意げになって親指で自分を指し示す啓人。
啓人とバッティングセンターって酷く不釣合いな気がしたし、
デートする場所にはあまりにもロマンティックと言いがたかったが、何だか本当に子供に戻ったみたいな啓人の姿が可愛かった。
灰色の建物はお世辞にも綺麗とは言いがたい。建物内も外観と同じだけの印象で、古い蛍光灯が頭上でちかちかしている。
さっきのまばゆいライトアップの、煌くような世界とは180度違う世界。
それでも啓人はさっきよりもずっと綺麗に輝いているように―――見えた。
小さな受付カウンターに新聞を読みながら、バラエティ番組を見ているおじさんが一人。
その横に両替機があったが、啓人は手馴れた手付きでカウンターに千円札を出して、おじさんは
「まいど」と無愛想に言いながら、銀色のメダルを何枚か啓人に手渡した。
こんな場所を見たのも来たのもはじめてだった。そのシステムがどうなってるのか分からず、私は啓人に手を引かれるまま、それでも物珍しそうにきょろきょろと辺りを見渡しながらもついていった。



