それから一時間を掛けてゆっくりと館内を回り、建物の外に出ると
空は薄紫色に染まっていた。
夕暮れの―――ほんの一瞬。
昼と夜とが交代して、太陽が眠りにつき、月が顔を出すこの一瞬―――
その色は赤でもなく、青でもない。
二色を織り交ぜた、微妙で複雑な色合い。
言い表すなら、
まるで女と男が交ざり合い、溶け合っているような―――
淡い色をした紫色が拓けた土地の空をいっぱいに満たし、空は淡いグラデーションのカーテンをひいたように
美しかった。
「綺麗だな~」
隣で啓人がぽつりと漏らす。
「ええ、本当に」
以前にも同じように同じ空を啓人と見上げていた。
啓人の誕生日。凍りそうな真冬の夜に色とりどりの花火が打ちあがっていた。
肩を並べて見上げたその空は何色もの色を空に散らせて、私は今と同じように感動していた。
あのときと、空は色も違うし空気も違う。
だけど美しいものを眺めるときは、啓人が隣に居る―――
私は隣り合って空を眺める啓人の指先にそっと自分の指先を触れさせた。
外気は吐く息さえも白く濁らせていると言う冷たさなのに、啓人の指先は熱を持ったように熱い。
そこから熱が伝わって、日々の生活で冷たくなった私の心をも温かく解かしていくようだ。
啓人がそっと私の指先を握り返してきた。
絡まった指が―――
空の複雑な紫色のように思えて、
何だか無性に涙が出しそうだった―――



