啓人の運転は上手だった。
下手にスピードを出すわけでもない、だけど慎重過ぎるわけでもない。
急ブレーキを掛けるわけではないし、無理な車線変更もしない。
近道で選んだ裏道で、信号のない路地に差し掛かったときだった。
細い道で、交わる側の道に自転車に乗った主婦が通りがかった。自転車に乗った主婦はブレーキを掛けて停車し、
もちろん啓人も一旦ブレーキを踏んだ。
気の優しそうな主婦で、啓人の車が通り過ぎるのを待っていてくれてるみたいだった。
じっとこちらを見て、動かない。
「お先にどうぞ」目がそう語っていた。
啓人の車は発車するかと思いきや、彼はその主婦に向かって手を振り、
「どうぞ」とスマートに促した。
主婦が恐縮したように頭を下げ、啓人が軽く手を上げる。
何だろう……
男のこうゆう仕草……運転中に気を遣って軽く手を上げるその仕草。
私は昔っから弱いのよね。
何ていうのかしら。その姿がかっこよく思えてしまうの。
だけど
啓人の、あの主婦を促すあの手の振り―――
あれは、それよりもかっこよく素敵に見えた。
啓人にとっては何の意識もしてないだろう仕草なのに、
あの一瞬、私の心臓が激しく音を立てたの。
ほんっとバカみたいにドキドキ…
まるで恋をしったばかりの娘のように―――ドキドキ………しばらく激しい心臓の音はおさまりそうにない。



