総合病院の最上階は喫茶店になっていて、お見舞いにくる家族やら、患者やらで賑わっていた。
年末だというのに、入院している人たちは思いのほか多そうだ。
薄いホットコーヒーを飲みながら、蒼介は向かいの席で項垂れている。
「さっきはごめん……」
コーヒーカップを両手で包みながら、蒼介がカップの中の液体を見つめている。
そこに何があるって言うわけでもないのに。
その視線はさっきの怒りの余韻か、少しだけ尖っていていっそ睨んでいるように見えた。
「いいのよ。でもびっくりしたわ。あなたがあんな風に怒るなんて」
私はことさら何でもないように言ってコーヒーのカップに口を付けた。
あまり上品でない香りだったが、喉を潤すには充分だ。
向かいの蒼介は項垂れたまま黙り込んでいる。
そんな彼を元気付けるよう、私はわざと明るい口調で、
「でも良かったわ、お義母さん大したことじゃなさそうで」
と何とか笑った。
蒼介は、何事か考えるように最初は口を噤んでいたが、やがてたった一言小さく呟いた。
「………そうだね」
たった一言そう呟くだけなのに、蒼介は随分悩んで言葉を選んでいるようだった。
そして顔を上げると、その黒い瞳を僅かに濁らせて―――
「ごめんね。紫利ちゃん。本当にごめん―――」
彼は私をまっすぐに見つめてきて、はっきりと謝った。



