「私の居場所を何とか突き止めた母親から連絡があって、お父さんはずっと受取人を私にしたまま、保険料を積み立ててたみたい。
受け取ることなんてできない、って断ったけれど借金のことを知ってたお母さんが
『これを使いなさい』って。ホント…私って親不孝」
萌羽は、ふっ、と自嘲じみた笑みを漏らして私に同意を求めるよう見つめてきたけれど、私は頷けなかった。
代わりに首を僅かに横に振る。
「どんなに仲が悪かろうと、勘当しようと、あなたはご両親にとってただ一人……いつまでも可愛い娘なのよ」
私の言葉に萌羽は僅かに目をまばたいて、ゆっくりと頷いた。
「やっぱり姉さんは優しいのね。でも、その保険金のお陰で私は借金を返済して…その後逃げるように東京に出てきた。
経歴を偽って、マダム・バタフライのホステスになれたのは、ホント運が良かったとしか言いようがないわ」
「何故マダム・バタフライに?」
ほかにも道はあった筈。やり直そうと思うのならば、こんな苦労する大変な世界よりも、もっと安定した仕事が幾らでもあった筈。
「私ね、実はお店で雇ってもらう前に、一度お店の前で姉さんを見たことがあるの」
その一言で今度は私の方が目をまばたいた。
萌羽と―――会った?
覚えが―――ない。
「仕方ないよ。だって私は田舎から出来てたばかりのイモ娘で、姉さんは会社の重役クラスみたいな人のお見送りに出て、その人に丁寧にお別れの挨拶をしてたんだもの。
当てもなくふらふらと銀座を歩いていたら、まるで別世界のお店の入り口から―――
まるで別世界のように綺麗な姉さんがお客さんと出てきた。
姉さんは黒いドレスで着飾っていて、とっても綺麗だった。
そこだけ光が当たったように輝いて―――私には眩しかった
何もかも無くした私に、姉さんだけが唯一の光に見えた」



