Addict -中毒-



萌羽には随分心配かけた。


私の勝手な行動のせいで、ママやその他のホステスたちから攻め立てられかもしれない。


その考えを読んだのか、


「大丈夫よ。ママには適当にごまかしておいたから。


ついでに言うとアキヨもあの場に戻ってこなかったわ」


アキヨ……プライドを傷つけられて、自棄になって、ママや会長に迷惑掛けてなければいいけど。


萌羽は疲れを滲ませた横顔を私から背けて、テーブルと対になってる椅子に腰掛けた。


琥珀色の液体が入ったグラスを傾けると、


「私ね…本当は銀座の高級ブティックなんかで働いてなかったんだ…」


と、唐突に切り出した。


「え…?」


言っている意味が分からず、私は目をまばたいた。


萌羽が「座ってよ」ともう片方の椅子を指し示す。私は言われた通りその椅子に腰掛け、萌羽の表情を伺った。


私が始めて見る―――少し翳りのある表情に、心臓がドキリと嫌な音を立てる。


萌羽はいつも明るくて、色っぽいのに可愛くて…不思議な魅力のある女なのに、それなのにその独特の艶っぽい表情が今はすっかりなりを潜めている。


ただあるのは、仮面のような…作り物めいた無表情だけ。


萌羽は私にグラスを勧めて、そして飲んでいたウィスキーを注ぎ入れる。


私は無言でそれを口にした。




「本当は高校生のとき、16で付き合ってた彼氏の子どもを妊娠したの」




萌羽の淡々とした言葉に、私は目をみはった。


萌羽のそんな話聞いたことがなかったし、彼氏が居たこと自体知らなかったから。


そう言えば萌羽はあまり過去のことを語りたがらなかった。


これは萌羽だけに言えることでなく、あのクラブで働いていた女の子たちに共通して言える事柄だ。


誰もが何かを抱え、あのクラブで働いている。日々働いて生きる為に必死になっている現実で、過去のことを気にしていられる状態じゃなかのかもしれないけれど。


だから私も聞かなかったし、反対に誰かが私のことを聞いてくることもなかった。


何とか落ち着きを取り戻したい一心で、私はウィスキーを強引に煽った。


熱い何かが喉を通り顔をしかめたけれど、今の私には丁度良かったのかもしれない。


「それで?」


と冷静に促すと、萌羽はちょっとだけ私の方を見た。


その表情が悲しみと不安に揺れていた。