私はそれに関して何も答えずに、振り向きもせずに扉を後ろ手に閉めた。
―――おれのとこにおいでよ
しんと静まり返った廊下を一人で歩き、チェックインした部屋へと戻る。
静まり返った深夜のホテルの廊下に、さっきの啓人の言葉だけがまるで幻聴のように何度も鳴り響く。
何度も、何度も……繰り返し―――
行きたい。何もかも捨ててあなたに縋りたい。
再び涙が出そうになって、私は目元を押さえた。
それがどんな酷い嘘であろうと、
私には唯一綺麗な言葉に聞こえたのよ。
――――
――
何とか涙を引っ込めると、私は萌羽の待つ部屋のインターホンをおずおずと押した。
「早かったのね……」
バスローブ姿の萌羽が、少し疲れたような表情で私を迎え入れてくれた。
私たちがチェックインした部屋は啓人のとっていた豪華なスウィートに比べると、広さも調度品もランクが落ちるが、それでも充分に広かったし上品な印象だ。
萌羽は部屋の明かりを点けず、テーブルにあるランプだけを灯して、その上に缶ビールやらウィスキーの瓶なんかが転がっていた。
まだ飲みかけのウィスキーがロックグラスの半分ほど残っている。
随分飲んだようだ。
「……萌羽…ごめんなさい……」
飲みすぎを咎めるより、私は開口一番に謝罪の言葉を口にした。



