「祝いならたくさん貰った。あのウィスキーやワインがいい例だ。俺が子供のときはおもちゃだとかゲームだったのに、いつの間にか酒に変わったなぁ」
なんて言って鼻の頭を擦る。
「おっさんになったってことでしょ?」
笑って言ってやると、
「ひでぇな。ま、確かにそれは否めないけど」
と言って私の耳たぶにチュッとキスが落ちる。
「こうやって誕生日には極上のオンナをベッドに誘えるぐらい、俺も大人になったってことだ」
一段と大きな花火が上がって―――だけど、啓人はその華やかな花火よりも私の横顔を見つめてきた。
「俺、誰かと花火みたのなんて何年ぶりだろな…」
ぼんやりと言ってその顔を窓の外に向ける。
「紫利さんは?誰かと…旦那とかと見たりするの?」
その問いに私はゆるゆると首を振った。
嘘ではない。実際、蒼介と花火を見たことはない。
お互い花火を一緒に見たがる歳でもないし、花火大会なんて人ごみの多い場所は二人とも苦手だ。
でも…そうね―――私がまだ高校生の頃は…付き合っていた彼氏と行ったものね。
はじめて着た浴衣。はじめて履いた下駄。
たくさんの人ごみの中を縫って、二人手を繋いで空を見上げたっけ。
浴衣は着崩れしそうだったし、下駄は鼻緒擦れして痛かった。
でもとても楽しかった。
屋台で売ってる林檎飴や、たこ焼きなんかを食べながら、「暑いね」なんて言って団扇で扇ぎあったっけ。
遠い昔なのに―――まるで昨日のように思い出せる。
あのときの恋心を思い出せる。
それは啓人が隣に居るから―――
私は彼に―――恋をしているから。



