彼が微笑みながら先を促す。私はその手の先を見た。
茶色を基調とした年代を思わせる廊下が目の前に広がっている。
壁には印象派の絵画が飾ってあり、アンティーク風の照明がぼんやりと足元を照らしていた。
どこかで見た光景……
そうだ。これは行きのタクシーで見た夢だ。
あれは予知夢だったのか―――……
夢か現実か、私の中は不思議な感覚に陥って目に映る景色が歪んで見えた。
私の手を握っている人は幻で、触れたら消えてしまう?
いいえ。彼の手はしっかりと熱を帯びていたし、彼の香りも間近に感じる。
私は彼の手を握り返し、再び脚を早めた。
廊下を曲がったところで、様子を伺いにきただろうアキヨと出くわした。
手を繋いで先を急ごうとする私たちを見て、アキヨはさっと顔色を変えた。
「姉さん!それに神流さんも!どこへ行くつもり!」
目を吊り上げるアキヨを見て、一瞬だけ私の足取りが止まった。
啓人も足を止め、ゆっくりとアキヨを振り返った。
「姉さん、まさか彼の部屋に行くつもり!そんなことが許されると思ってるの!!」
アキヨは肩をいからせて、ここが高級ホテルだと言うのに、場違いな安っぽい言葉で怒声を撒き散らした。
その姿はまるで客を横取りされた娼婦のよう。
啓人は深くため息を吐いて肩を竦めると、
「じゃぁおたくが紫利さんにしたことは許されることなわけ?」
と、凍てつくような低い声でアキヨに問いかけた。



