Addict -中毒-



「堅いこと言うなよ。細かい女は嫌われるぜ?」


啓人はにやりと意地悪そうに笑って、再び「行こう」と私を促した。


力強い腕。強引なのに、でもちっとも乱暴ではない。


温かい手。熱いのに、感触はさらりと心地いい。


啓人から彼の愛用している香りがふわりと香ってきて、一瞬で頭の中のごちゃごちゃした蟠りが何もかも消し飛んでいった。



聞きたい事はたくさんあったのに、私は何も聞かなかった。


聞けなかった、と言った方が正しいのかしら。




答えなんて必要ない―――そう思った。




だって彼の「行こう」という言葉に、この先の短い夢が全部詰まっていそうで、儚い幸せを全部持っていそうで……



全部、全部―――



今だけは、道徳や倫理なんて何もかも捨て去って、




その言葉に縋りたい。






「ちょっ…約束って!?姉さん!」


意気消沈したようなアヤコさんに代わって、萌羽が私たちのあとを追いかけてきた。


啓人と私は一瞬だけ顔を合わせると、互いに微笑んで、互いの存在を確かめるようにしっかりと指を絡ませて、



走り出した。