Addict -中毒-



啓人は色っぽく口角を上げると、


「決まりだな。行こうぜ」と、ぐいと私の手首を引き寄せた。


声を出す間もなく彼の腕の中に納まると、アヤコさんが目を吊り上げた。


「ちょっと、啓人!どうするつもり!まさかこの人を部屋に連れ込むわけじゃないでしょうね!」


肩をいからせ、今にも掴みかかってきそうな勢いだ。


「姉さんも!まだこんな男のところに行くの!?」萌羽の口調も厳しいものだった。


啓人は唇に人差し指を当てて、


「しー」と一言。


「あんまり怒りなさんな。お二人とも美人が台無しだぜ?」にやりと笑って、


「行こう、紫利さん」と私の耳元でそっと囁いて腕を引いた。


甘くて低い…背中にまで響いてきそうな声。


心地いいのに、足元から痺れて崩れるような感覚に捉われる。


だけど実際に私の足取りはしっかりしたもので、啓人の向かう方へきっちり付いていく。


「ちょっと!」アヤコさんが怒鳴り声を上げた。


お手洗いに彼女の甲高い声が響き渡る。


啓人がわずかに顔を振り向かせ、ちょっとだけ肩をすくめる。


「一年前からの約束だぜ?綾子、今日だけは俺の好きにさせろって」


一年前からの約束?


それが何を意味してるのか、私にはさっぱりだった。


だけど二人の間で何か特別な取り決めでもあるのだろう。アヤコさんはその言葉を聞いてぐっと詰まった。


追いかけようと上げた手を止め、忌々しそうに目を細めている。


「まだ0時前よ。つまり約束は無効」