「それは―――……」萌羽が口を開くと同時だった。
「それは違うな」
と、聞き慣れた声がして私は目をみはった。
啓人がお手洗いのドアにもたれかかって、腕を組んでいる。
「ちょっと…!ここ女性用よ」
びっくりして思わず私は啓人を睨むと、彼はそんなこと気にしないというようにちょっと笑った。
何で……
何でこんなところに来たのよ。
あんたはパーティーの主役だって言うのに…
でも
彼の笑顔は少しだけ曇っていて、私を心配して追いかけてきてくれたのが分かった。
「着物……大丈夫かよ」啓人は心配そうに表情を歪めながら、私の元へ歩いてきた。そして私の足元を見てまた一段と表情を曇らせる。
「あーあ…こりゃ結構な染みだな。取れるかな」
「大丈夫よ。呉服屋に任せるから……」萌羽にも説明した言葉を力なく繰り返すと、その隣で
「ちょっと、あなた!半分はあなたのせいでもあるんだからね!」
と、萌羽が立ち上がり、勢い込んだ。
「姉さんがこんな目に合ったのも、姉さんを迷わせるのも、あなたのせいなんだから!」



