アキヨ―――……
「姉さん大丈夫?」と心配そうに目を伏せるものの、彼女の口元に淡い笑みが浮かんでいるのを見て私は確信した。
アキヨ……わざとね―――
京友禅の色留袖。淡い藤色がグラデーションになっていて、裾に淡いピンクの芍薬と黒や青色といった小さな蝶が優雅に飛び交っている柄。
私のお気に入りの一着なのに、綺麗な藤色が赤く染まっている。
やってくれたわね―――……
「どうゆうことだ?会場には赤ワインなんて出す予定はなかっただろう」
啓人が低く言うと、ウェイターはびくりと肩を震わせて深々と頭を下げた。
「申し訳ございません!何かの手違いのようでして!」
もう一人のウェイターが騒ぎを聞きつけて、布巾を手に慌ててやってきた。
周りが騒然となる。
みんなの注目を痛いほど浴びて、私は居心地が悪かった。
「姉さん」と萌羽も慌てて駆けつけてくる。そして萌羽がすぐ近くに居るアキヨを睨みつけた。
「どうゆうことよ!アキヨ!」
アキヨはたじろいだように一歩後退して、
「あたしじゃないわ!萌羽姉さん酷いわ!」と声を震わせ、わっとその場で泣き崩れる。
周りからひそひそと噂話が漏れ聞こえ、険悪なムードが流れる。
遠方から神流会長も何事かこちらの様子を伺っているようだった。
いけない。場の空気を濁してしまう。
私はウェイターから布巾を受け取ると、
「萌羽、勝手な憶測はやめなさい。これぐらいだったら洗面所に行けば何とかなるから」
そう一言言って、
「皆様には大変ご迷惑をお掛けいたしました。どうぞパーティーをお楽しみください」
腰を折り、客たちに頭を下げると、会場を後にした。
会場を出て行くときに、ちらりとアキヨの方を伺うと、彼女は勝ち誇ったようにちょっと口元を歪めていた。
まったく、嘘泣きが上手だこと。
啓人の顔は―――
見れなかった。



