「村木さんの肩書きは“次長”になっていらっしゃいましたが、ご子息の……」
「ええ、まぁ部下ってことになりますね」
村木さんは忌々しそうにちょっと表情を歪めた。
目の上のたんこぶ…か。なるほど、そんな感じだ。
「大変ですわね。歳若い…それも会長のご子息が上司だと色々気を遣ったりされるでしょ?」
私は村木さんを持ち上げて笑った。嫌味な程度じゃなく、あくまで自然に。
村木さんはその言葉に気を許したようにちょっと笑った。
笑うと、意外にも―――愛嬌がある。
蒼介より野心家だろうが、彼の笑顔は夫のそれと少し似ていた。
たぶん―――根は悪い人ではないのだろう。
「気は遣います。正直合わないし、腹がたつこともしばしばあります。でも私はまぁ―――何ていうか、あの人のやる気は認めてますよ」
意外な言葉を聞いて私は目を開いた。
一方的に理由もなく嫌ってるわけではなさそうだ。
「彼はああ見えて―――結構努力家なんですが、まぁ要領が悪いというか、何と言うか…
見ていて苛々するようなことはあります。経験の差もあるだろうけど」
彼は少し考えながら、言葉を慎重に選びながら喋っているようだった。
だけどその裏に嘘やその場限りのお世辞を言っているようには思えなかった。
「目指すところは一緒でも進め方、考え方が違っているんですね」
「まぁそれだから衝突するわけでして」
村木さんがちょっと恥ずかしそうに笑う。
そして啓人の方を眺めながら少しだけ目を細めた。
「少し前―――って言っても一週間ぐらい前でしたか。彼が動かしていた億っていう契約がだめになってしまって」
彼はとつとつと喋りだした。



