Addict -中毒-



「あちらのアヤコさんって方は会長の秘書の方ですか?」


私は何気なく聞いた。村木さんは一瞬怪訝そうに私を見たけれど、


「そうですけど。それが何か?」と聞いてきた。


「いえ。仲が宜しいようにお見受けしたので」


村木さんは少し考えた後「ああ」と合点したように頷いた。


「恋人関係ではなさそうですよ。噂にはのぼってますけれど、私はそうは思えない」


きっぱりと彼は断言した。


でも他人から見たらそうかもしれないけれど、そう振舞っている可能性だってある。


「あなたも神流部長のことが?」


ちょっと下卑た笑みを浮かべて聞かれ、私はむっと思ったが、それは顔に出さずに、


「いいえ。お二方とも素敵な方ですから、お似合いだと思いまして」


とにっこり答えた。


「どうだかねぇ」と村木さんはちょっと失笑し、「失礼します」と言って私たちに頭を下げ、その場を離れていった。


「何あれ!感じわる~」と隣で萌羽が唇を尖らせている。


「萌羽、悪いけどこれ持ってて」私は手にあるシャンパングラスを彼女に預けると、村木さんの背中を追った。


「村木さん」


呼びかけると、彼はすぐに振り返った。


ちょっと驚いたように表情を浮かべている。


「まだ何か…」


「いえ。神流グループの方はよくお店にいらしてくださるけれど村木さんは初めてお会いしたので、もう少しお話したいと思いまして。

ごめんなさい。厚かましかったですよね」


しおらしくちょっと項垂れると、


「こんなに綺麗な人にそう言われて喜ばない男は居ないと思いますよ?」と村木さんはちょっと微笑を浮かべた。