村木……
どこかで耳にした名前だ。
「あ。ご子息と同じ部署の…」
同じように名刺をいただいた萌羽の方が先に口を開いた。
そうだった…
『“村木”ってのはよっぽどいい女なのね』
『あいつは50を過ぎたおっさんだよ』
以前の会話を思い出し、私は改めて村木さんを見上げた。
嘘じゃ……なかったのね…
ついでに言うと彼はこんなことも言っていた。
『陰険でさぁ。俺のこと目の仇にしてるの。目の上のたんこぶって言うのかな?年増OLの苛めみたいなことしてくるんだぜ?』
何となく…納得。
今も村木さんは忌々しそうに二人を眺めている。
「お二人は仲が宜しくないんですか?」私は会長と談笑している啓人に目を向けた。
この場合の“お二人”って言うのは神流父子のことだ。
「まぁ会社で会話してるのを見たことがないですね。会長室に呼ばれることはあってもいつも怒られてるし、あまりいい感情を持ってないないんじゃないですかね」
「怒られる……?」
「ええ、まぁ。業績不振とか色々ですよ。二人とも気が荒いから」
喧嘩はしないまでも、会長は啓人の業績不振に腹を立ててパソコンを投げつけたという事実を聞いて、私は驚いた。
「あの穏やかそうな会長が…?」信じられないように目をまばたかせると、
「自分の息子には厳しい人ですよ。息子だけじゃないけれど、まぁ特別扱いはしていないですね」
と村木さんは答えてくれる。
何もかも恵まれてると思っていたけれど、啓人は彼なりに苦労があったのだ。



