Addict -中毒-



会場に戻ると、遠くの方で神流会長と啓人は談笑し合っていた。こうやって見ると、親子と言われても不自然じゃない。何故、気付かなかったのかしら私は。


私はその光景から目を逸らすようにして近くにいるウェイターからシャンパングラスを受け取った。


「姉さん…大丈夫?」


すぐに萌羽が近寄ってくる。


「萌羽……ごめんね。私知らなかったのよ…」


小さく謝ると、萌羽はちっとも怒っておらず首を振った。


「ううん。わたしも気付かなかったから……それより…顔色、悪い。あの人と何かあった?」


萌羽が遠くに居る啓人の方にちらりと視線をやる。


「いいえ、何も…」


そう、私たちの間には―――


最初から何もなかったのだ。


愛情も、信頼関係も―――何もかも。


「あのあとアキヨがテラスに行ったから、姉さん何か言われたんじゃないかって心配で…」


「ごめんね、心配かけて。でも大丈夫よ」力なく笑うと、萌羽は益々心配そうに顔を歪めた。


そして再び会長とお話中の啓人を見る。


そんな私たちに、同じように二人を眺めながら一人の男が近寄ってきた。


「珍しい光景ですね」


頬がこけて痩せぎみの不健康そうな中年男性だった。顏にははっきりと不機嫌を貼りつけている。


目をまばたいて男性を見上げると、彼はちょっと笑った。


「失礼しました。私はこうゆうものです」


差し出された名刺には


“神流グループ本社 物流管理事業本部 次長 村木 俊則(Toshinori Muraki)”となっていた。