啓人は長々と煙を吐いた。暗い夜の空にやけにくっきりと灰色の煙が浮かび上がり、天へと昇っていく。
「見くびらないでちょうだい。私があんたにたかるって言うの?」
「そんなことは思ってない。紫利さんはそんな女じゃない」
断言されて、私はちょっと戸惑った。
私の何を知ってるって言うのよ。
確かに私は彼の正体を知ったからって、彼の財産に群がるわけじゃないけれど。
「じゃぁ何………」
力なく聞き返すと、
「その逆。俺のこと知ったら、俺から離れていく気がしたから」
語気はそれほど強くないのに、彼の声は冷たい夜空にはっきりと響いた。
私はちょっと吐息をついた。
「そんなことはないわ」
知らなくても、私は離れていくつもりだった。
会いたくなかった。
携帯を変えて、もう繋がりがなくなると思ったのに―――
私は瑠璃色の景色に浮かぶ啓人の顔を眺めた。
その整った横顔に
ガラにもなく、運命を感じてしまう―――



