シングルの細身ブラックスーツに身を包み。
ウィングカラーのシャツは、シルバーのストライプが走っていた。
ちょっと光沢のあるアスコットタイは濃いグレーで、揃いのベストを中に着込んでいる。
完全なる正装―――とまでは行かないものの、そのコーディネートはお洒落で華やか。
彼の雰囲気に良く合っていた。
まるでそこだけスポットライトを当てられたような―――そんな輝きをかもし出している。
悪い夢でも見てるのだ。
「今晩は。萌羽さん。来ていただいて嬉しい限りです」
彼のくすぐるような甘い声に、萌羽は恐縮したように、だけど嬉しそうに声を弾ませながら、
「いえ。こちらこそお招きいただきましてありがとうございます」と丁寧に返事を返している。
もう一度言うわ。
これはきっと悪い夢よ。
いいえ。心地よい夢と言った方が正しいのかしら。
オペラの声が遠くに聞こえて、会場を照らし出す照明は眩しくもなく暗くもない、ちょうどいい明度。
そして鼻腔をくすぐる―――あの香り……
そして目の前には極上の
オトコ。



