それからどれぐらい経ったろう…
お酒を飲んでも、豪華な食事を口にしても一向に味がしなかった。
おいしいのか、そうでないのか分からず、それでも客に笑顔を振りまいて話題を振る。
勧められるままお酒を喉に通し、面白くない話にも相槌を打つ。
正直……疲れた…
少し休むつもりで私はママに「お化粧室に」と断りを入れるつもりで彼女に近寄っていった。
だけどママの近くに居た萌羽が顔を輝かせて、私の腕を引っ張った。その拍子にママは誰かに呼ばれて行ってしまった。
「姉さん、ほらっ。あの方がご子息よ」
萌羽が手を促した場所にはすでに人がまばらで、それでも五人ほどの男女に囲まれた若い男がシャンパングラスを片手に笑顔を浮かべていた。
私は目を開いて、その場で制止し、
その視線の先の“彼”は
私を見て、一瞬驚いたもののあの見慣れた人懐っこい笑顔を浮かべながら、その群を掻き分けてこちらに歩いてくる。
「うそ。こっちに来るわ」萌羽がはしゃいだ声をあげて私の肩を軽く叩いた。
私はそれにも返事が返せず、じっとその様子を凝視した。
オペラ歌手の『可愛がってくださいね』と言う美しい旋律を聴きながら、
それでも私は彼の靴音がリアルに聞こえてきた。
堂々とした男らしい歩き方。
歩幅は広く、それでいて歩く姿の姿勢は美しい。
“彼”が私のすぐ目の前まで歩いてきて、
「びっくりした。まさか紫利さんも来るとは思ってなかったから」
彼は―――いいえ、啓人は
相変わらずの意地悪そうで…セクシーな笑みを浮かべて私を見下ろしていた。



