アヤコって言う名前は度々耳にしたことがある。
“彼”の口から―――
それにこの声一度聞いたことがある。
と言っても本人を目の前にして聞いたわけじゃない。
何か媒体を通して―――そう……あれは電話だった。
“彼”の携帯電話。
会長は二、三頷くと、私の方へ笑顔で振り返った。
「失礼しました。どうやら息子が来たようでね。どうぞ、ご自由にお楽しみください」
爽やかな笑顔を振りまいて、会長とアヤコと呼ばれた女性が私に背を向ける。
その瞬間、遠くで一段と華やかな声があがった。
会場の一角に人の群ができている。
オペラ歌手の歌は『友よ、見つけて』に変わっていた。
流れるようなピアノの旋律と、オペラ歌手の優雅な歌声とは反対に、
私の心臓がリズムを早めるよう波打っている。
「姉さん。見えたみたいだわ」と萌羽がわくわくしたような笑顔で私に近づいてきた。
萌羽がちょっと背伸びをするように視線を遠くに向けているけれど、彼女のお目当ての姿は視界に納められないようだ。
取引先の重役たちが、我先にと挨拶を繰り広げている中、私はその群の中にアキヨが居ることを見つけた。
「あの子ったら」
萌羽が面白くなさそうに表情を歪めている。
その様子を苦笑しながら、それでも私はその人だかりから目を逸らした。



