「そう言えばあなたもだいぶ前に結婚されたとか。お店を辞められると聞いたときはやはり寂しい思いでしたよ」
と会長は明るく笑う。
その言葉にもちっとも下心を感じられなかった。
本当に私をホステスとして、認めてくださっていたのだ。
「今は萌羽さんを指名させてもらっているよ。あの方も美人できさくで、楽しい方ですね」
と、会長はちらりと役員と談笑している萌羽の方に視線を配った。
私も何となく萌羽を見て、そして彼女もお店ではやはり気の入った接客をしているようで安心した。
何気なく顔を戻して、会長の横顔を見ると―――
私はまたもその顔に啓人と重なる何かを見た。
廊下に残った残り香―――
そして夢で見たあの廊下。
まさか―――……
あたしが目を開いて、その横顔を伺っていると、ふいに会長が顔を戻した。
私も慌てて視線を外すと、
「いつもマダム・バタフライをご贔屓にしていただきましてありがとうございます。今後も何卒宜しくお願いいたしますね。ところで今日ご子息は―――……」
と切り出した。
それは禁断の―――超えてはいけない
知ってはいけない事柄の
質問だった。



