「蒼介はねぇ、そりゃ冴えない人かもしれないけれど、一途でまっすぐ。そしてとても純真な心の持ち主なの。
それがあなたに見抜けなかったら、ホステスとしても長生きできないわ。ましてや№1なんて一生無理。
お客様の本質を見抜いてない証拠ね」
アキヨはドレスの裾を握って、唇を噛んだ。
私の言葉に何も反論できないようだ。
周りのホステスたちもどう対処していいのか困った様子でおどおどしている。
「くやしかったら、私を言い負かすぐらい大物になりなさいな。
そんな挑発に簡単に乗ってるようだったら、それも一生無理だと思うけど?」
私の方がアキヨよりも10cmほど背が高い。今はアキヨがヒールを履いているから並ぶぐらいだけど、
それでも身長の差だけではなく、私は彼女がとても小さく見えた。
「あんたも銀座の女の名前背負ってるのなら、せいぜいその店に泥を塗らない程度に、名前を汚さないようにがんばりなさい。
いくわよ。萌羽」
萌羽を見やると、ぽかんとして私とアキヨの言い合いを眺めていた彼女はびくりと肩を揺らし、
「あ、はい!」と慌てて私の後をついてきた。
化粧室を出ると、中から「何よっ!!」とアキヨの怒鳴り声が聞こえてきて、私は思わず苦笑したけれど、
隣を歩いていた萌羽はすっきりしたように声をあげて笑っていた。
「さっすが姉さん。かっこいいわ」
私は萌羽の言葉にうっすら笑みを返したところだった。
嗅ぎなれた香りが―――どこからか香ってきて、
私は目を開いた。
―――啓人………?



