「ただいま。やぁ、随分賑やかだね」
いつの間にか蒼介が帰っていたことにびっくりして、私は慌ててベッドに出したドレスを片付けようとした。
「おじゃましてま~す♪」と萌羽が営業用の明るい笑顔で答える。
「そのままでいいよ。萌羽さん…?ですよね?あれからトラブルは大丈夫なんですか?」
蒼介がちょっと心配そうに声を低めた。一瞬、蒼介がそのことを覚えていたことにぎくりとしたが、萌羽はうまく切り返してくれた。
「ええ。おかげさまで。その説は月香姉さんにご迷惑をお掛けいたしました」
律儀に頭を下げると、萌羽はにっこり笑顔を浮かべる。
さすがは№1ホステス。
笑顔も、姿勢も完成された動作のように美しい。
「いや……無事ならいいんだけど…」
蒼介はやっぱり女性と話すのに慣れてないのか、ちょっと照れくさそうに顔を逸らした。
「萌羽さん、今日は夕食を……」
蒼介がおずおずと申し出る。
「あら?もうそんな時間?萌羽あなたが良かったらお寿司でも取るけど、どうする?」
私は腕時計に視線を落とすと、夜も19時を回っていた。
迷惑料として…じゃないけれど、たまにはゆっくり夕飯を食べるのもいいかもしれない。
「そうですか~?じゃぁお言葉に甘えて♪」萌羽が可愛らしく手を合わせる。
素直なこの言動が可愛らしい。大人の色気を漂わせながら、時折少女のような仕草をする。
その仕草は、ちょっと羨ましいと思うほど彼女によく合っている。
ちょっとアンバランスな不思議な色気が、お客様にも人気なのだ。
蒼介も気を悪くした様子はない。
萌羽は私のことを賛辞するけれど、彼女のこうゆうところ私には絶対にできない。
そうゆうところ―――羨ましいと思うけど?
「それじゃ、お寿司でも取ろうかしらね」
私は腰を上げた。



