萌羽の言葉に、私は面食らった。
いつもの冗談かと思った。いつも彼女は私のことを褒めてくれるけれど、それは身内に対する愛情のようなものだと思っていたから。
でも今は違う―――
私を見つめるその視線には―――啓人が見せるあの熱いものに良く似ていた。
「萌羽……?」
声を絞り出すように問いかけると、萌はにこっと出し抜けに笑った。
「わたしも頑張らなきゃ!だけど、もしそのジュニアが姉さんを見初めたら、姉さんそっちに鞍替えするのもいいかもよ~」
なんて冗談めかして言ってくる。
「鞍替えって…」
と私も何とか笑いながらも、「それじゃあんたが納得しないでしょ。そんなに頑張ってるのに」と言った。
「まぁそれはそれでしょうがないんじゃない?」とあっけらかんと返してくる。
大会社の御曹司が私を見初めるなんて、そんなことあるわけない。
きっと目だって肥えているだろうし、何しろ私は人妻だ。誰が好き好んでスキャンダルをわざわざ招くのか。
「そんなこと絶対にないと思うから安心してがんばりなさい」
萌羽の肩を軽く叩くと、萌羽は少しだけ笑顔を浮かべてまたアクセサリー選びを再開しだした。
そんなことを話していたからかな?少し現実離れした妄想じみた会話をしていたお陰で、
私はいっとき啓人のことを忘れられた。
このまま綺麗に彼の存在を消し去るには―――
まだまだ時間がかかりそうだ。



