Addict -中毒-



私は和服を着ることにした。


お気に入りの一着で、京友禅の色留袖。淡い藤色がグラデーションになっていて、裾に淡いピンクの芍薬と黒や青色といった小さな蝶が優雅に飛び交っている柄だ。


ドレスと言うガラでもないし、着物は着慣れている。何より失敗がない。どんなお客様にでも対応できるし。


「明日は12時にネイルサロン、14時に美容院を予約してあるから♪もちろん姉さんも一緒よ♪」


ベッドに、ドレスに合わせる小物を並べながら萌羽が楽しそうに言った。


「随分気合入ってるのね」


私が苦笑して返すと、萌羽はちょっと胸を反らした。


「当然よ!ナンバー3のアキヨなんてすっごい気合入れちゃってさ。話が決まったときからわたしを敵対視しまくり。


人を年増呼ばわりしてくるし、ヤんなっちゃう。あの娘だけには負けられないわ!」


萌羽は眉間に皺を寄せると、忌々しそうに腕を組んだ。


ホステス同士の諍いはどのお店でも当たり前のようにある。


私と萌羽の関係が少し異常なのだ。


アキヨのように萌羽にあからさまに敵対心を燃やしている直接的なタイプもいるし、影で陰湿な嫌がらせをするタイプもいる。


私もその二タイプの嫌がらせを受けたことがあるが、忍耐強くそれらをやり過ごした。


そうでもしないと銀座のクラブのナンバー1なんて務まらない。


アキヨ……私は一年ほどしかかぶったことがない。


私がお店に居たときは、確かお店の指名率5番内にも入っていなかった。


歳若くて、可愛らしい今時の女の子。だけどマダム・バタフライのイメージとは少し違う。


でも持ち前の明るさと元気を売りにして、きっとお客様に可愛がられているに違いない。


昔から居るベテランホステスは彼女のことを、「品位が下がる」なんて嫌な顔をしていたっけ。


アキヨだけではない。最近入店してくる娘は、ここがクラブではなくキャバクラだと思い込んでいるのか、結構派手な子が多い。


それだけお客の嗜好も変わってきているということだけど。


そのアキヨもきっと狙いは神流グループの若き御曹司だろう。


「まるで金を掘り当てる、開拓者みたいね」


私が少しだけ笑みを漏らすと、慎重な手付きでアクセサリーを選んでいた萌羽が顔をあげた。


「え?」





「ゴールドラッシュっみたいってこと」