そうして変わらぬ日常がやってきた。
私は意味もなく大掃除をしたり、凝った料理をしたりして時を過ごし、その間に啓人のことを忘れてくれることを願っていた。
それなのに―――
時が経つと尚更、あの恐ろしいほど彼に溺れた夜のことを鮮明に思い出す。
私を簡単に押し倒す力強い腕。
私の耳元で囁く、あの低く甘い声。
彼の体温。彼の…………香り―――
何もかもがよりリアルになって、私の五感を刺激し―――支配する。
早く
早く忘れたいのに―――
どうしたら彼のことを忘れられるだろう……
そんな風にして、とうとうパーティー前日の夜が来た。
この日はマダム・バタフライもお休み。
明日のパーティーは夕方からだけど、ホステスたちには万全の体調で望んで欲しいとのママの計らいだった。
夕方頃、萌羽がうちに来た。彼女の目的は私のアクサリーを貸して欲しいということだったけれど、きっと違う。
私がどうしてるのか気になって、だけどそれを聞かずに居る。
「姉さん!このダイヤのネックレス借りていい?」
「使ってないし、いいわよ。それずっと前に買ったものだけど、使わないからあなたにあげるわ」
「ホント!?」
「ええ、デザインも若いあなた向けだし、明日着ていくドレスに丁度合うんじゃないかしら」
なんて楽しみながらも、私たちはまたも寝室で様々なドレスや着物を出してはファッションショーをしていた。



