慌てて勢い込むと、タクシードライバーが弾かれたようにブレーキを踏んだ。
結構な急ブレーキだった。
シートベルトがなかったら、運転席に顔をぶつけていただろう。
私は慌ててシートベルトを外すと、メーターも見ずにタクシードライバーに万札を一枚渡した。
「お釣りはいらないわ」
「えっ??貰いすぎですよ!?」
人の良さそうなドライバーが困ったような表情をつくって私を見る。
「チップよ。乗せてくれてありがとう」
早口に言うと、私はタクシーから慌てて飛び出した。
携帯を変えるだけなのに、私は何でこんなに急いでいるのだろう。
お店は逃げていくわけでもないし、今は時間も早いから客が入っている様子でもない。
それなのに急ぐ理由は―――
早く―――
啓人との関係を断ち切ってしまいたい。
その決心が鈍らないように―――
そう思ってのことだった。
――――
――
携帯を変えた。ナンバーもアドレスも全部。
彼は私の家を知っているだろうけど、彼がわざわざ私に会いに来ることはない。
私が恵比寿のバーに行かなければ、顔を合わせることもない。
私と彼を繋ぐものは何もなくなったのだ。
これでいい
でも、もし再び会えるとしたら―――
今度こそ、私は少しだけ運命を
信じてみよう
何もかも捨てることを―――少しだけ視野に入れよう。



