蒼介は私からの連絡があるまで家に居たようだが、私の身の安否を確認すると、ほっとしたのかこれから大学に出向くという話だった。
蒼介と顔を合わさないことに、正直―――ほっとした。
蒼介との通話を切り、私はメモリの蘭に並んだ“恵比寿バー”もとい啓人の番号を消そうと思った。
メモリを開いて、消去ボタンを押すと、
お決まりの“消去しますか? YES NO”と言う表示が出てきた。
よくドラマや小説で出てくるシーン。
主人公は迷いに迷って、それでも結局は“YES”を選択する。
私は―――………
長い間、その二項目を見比べ
やがて何もせずに携帯をそっと閉じた。
名残惜しいとかそんなんじゃない。
ある日ふいに見知らぬ番号から掛かってきたら、出てしまいそうだから。
いえ……
そもそも彼から連絡が来ることってあるのかしら。
手に入れたら―――もう必要はないんじゃないか。それはそれでいい。これ以上彼に振り回されるのはごめんだ。
そう思う一方、私はじりじりと彼からの連絡を待つ。
結局は―――番号を消しても一緒。
昨夜の嵐の名残か、道路には冬支度をした茶色い木の葉っぱや、枝…あちこちから風に乗ってゴミなどが散らばっていた。
朝の東京の建物は清々しさを微塵も感じずに、ただくすんだ色を落としている。
その中で私は携帯のショップを見つけた。
そこに何か新しい展開が待っているように、その建物だけが妙に明るく輝いて見えた。
「運転手さん!ごめんなさい、ここで降ろして!」



