萌羽は啓人とのことを応援している―――という風ではなかった。
最初はミーハーそうに楽しんでたところがあるけれど、彼女もきっと啓人が私と真剣な付き合いを望んでいるとは思っていないだろう。
私が遊びと割り切れれば萌羽もここまでは渋面を見せないだろうけど、割り切れないことを見抜いているのだ。
だけど蒼介とのことも応援していない。
彼がよく家を開けて研究に明け暮れているのが気に入らない。姉さんを一人きりにして寂しい思いをさせてるのが気に入らない。
前に一度そんなことをこぼしていたっけ。
女同士。
前はお店のナンバー1とナンバー2という立場にありながら、大きな喧嘩なんて一度もしたことがない。
女の―――それも夜の世界でそれは至極珍しいことではあったけれど、私たちの関係は単なる先輩、後輩というよりも姉妹に近いものがあったから。
今でも嫁いだ姉を妹が心配している―――きっとこんな関係図だ。
私には姉妹がいないから、それは新鮮であり心地良いものではある。
萌羽と別れてタクシーに乗り込むと、私は蒼介に電話をした。
ワンコールですぐに蒼介が電話口に出たことから、私の電話を待っていたのだろう。
ごめんなさい
心の中で謝りながらも、私は萌羽と考えた嘘の言い訳を蒼介に伝えた。
「お客さんと金銭のことでトラブルがあったみたいで」
『そっか、それは大変だったね。金銭トラブルってもしかして借金の保証人になっちゃったとか?』
と、蒼介はあくまでお人よし。萌羽の心配までしてくれる。
「違うわ。お店のツケのことよ。まぁ借金には変わりないけれど、無事回収できたからもう大丈夫」
綿密な話し合いをしたお陰で私の口からスラスラ嘘が出てくる。
嘘をついているときは、不倫をしてる―――と意識をまるで感じなかった。
まるでそれが本当のことであるかのように、ちっとも緊張しない。
このいけない感覚に―――
私は酔い、溺れてしまわないよう、唇を強く噛んで眉を寄せた。



