「ありがと。優しいね」
彼が私を見つめて、微笑を浮かべる。
「別に…。前の癖が抜けないだけよ」
「ああ。夜のお仕事のヒト?こんな美人が居るんなら俺毎日通っちゃうかも♪」
笑顔のリップサービス。
普通の女ならイチコロね。
「前はね。離してくれる?」
そっけなく何でもないように言ったけれど、彼に掴まれた腕が熱をもったように熱い。
それは彼の体温ではなく、私自身胸の高鳴りがその場所に集中して熱くなってるみたい。
彼は腕をそっと離した。
「失礼しました」
強引なくせに、引き際をちゃんと心得ている。
慣れてる―――
そんな言葉が一番しっくりくるわね。
「久々。水ぶっかけられるなんて」
彼はのんびり言って私のハンカチで額を拭った。
全然堪えていない様子だった。
仕立ての良いスーツも僅かに濡れている。
その彼の横顔をそっと窺うと、思った以上に若いということに気付いた。
せいぜいいって25ってとこかしら。
「ユウくん。俺にも彼女と同じものを」
彼は私のカクテルグラスを見て、バーテンににこにこ笑いかけた。



