「さっきの話だけど…」コーヒーカップに口を付けながら萌羽が言いにくそうに話題にした。
「もちろん、旦那さんに何か聞かれたら適当に答えておくわ。だけど、姉さんその若い男と本当にもう会わないつもり?」
私もコーヒーカップを手にして、目だけで萌羽を見上げた。
「会わない。会ってはだめなの」
ただでさえ―――
昨夜はあんなにも激しく彼を想った。あんなにも激しく彼を求めた。
彼の力強い腕は私の気持ちを受け入れるかのように、優しく―――そして情熱的だった。
だから尚更………これ以上深入りすると、後戻りは―――できない。
恐ろしい夢でも見たのだ。
そう考えて納得するしかない。
カチャン…
萌羽がカップをソーサーに置いた音が妙に大きく耳に響いた。
想いから戻るよう、顔を戻すと萌羽は真剣な顔で私を真正面から覗き込んでいた。
「姉さん―――私は姉さんのすることに反対はしない。姉さんの思う通り行動するのがいいと思う。
でもそれは本当にそうしたいと思ってのこと?
自分に素直になって、向き合ってみるのも大切だと思うわ」
萌羽の言葉がストンと胸に落ちる。
萌羽は再びカップを持ち上げると、真剣な表情から一転。
「来週はパーティーもあるし、気分転換に楽しみましょう?それまで落ち着いて考えてみたら?」と提案した。
「ええ、そうね」
私は曖昧に頷いて、タバコの火を消した。



