相澤は前触れもなく、いきなり私の腕を掴んだ。


「何するの!」


研究ばかり取り組んでいるから、細い腕をしているのに、相澤の腕は女には適わない力がこもっている。


「離してよ!」


腕を振り払おうとすると、相澤はにやりと薄く笑って、私をベッドに引きずりそのまま体を乱暴に倒した。


悲鳴をあげる暇もない。


私の上に相澤がのしかかってくる。


「いいじゃないか。あの男ともヨロシクやってるんでしょう?藤枝先生にバラさない代わりに、俺の相手もしてくださいよ。


奥さん」


相澤は私の耳元で囁くように呟いた。


ぞくりと、嫌悪感が背中を撫で上げた。


相澤の声には、どこか楽しんでいるような気配さえ感じる。


なんて卑劣で小さな男。


啓人は―――こんな姑息な手を使ってこなかった。


あの人はいつだって堂々と、私の心をさらって行こうとする。


同じ強引さにも、こんなに違いがあるなんて……



私が黙ってるのをいいことに、相澤の唇が私の首筋に触れた。


ぞくり、と嫌悪感を感じ私は身を捩った。



啓人の感触じゃない。


彼のドキドキして、体中の血が沸騰するようなあの熱い何かを微塵にも感じられなかった。




私はゆっくりと瞬きをして、相澤を見上げると、空中で彼のにやりと言う視線とぶつかった。