「この前この近くまで送っていったから、会えるかなぁなんて思ってたけど、まさか会えるとはね。
これって運命??」
啓人は真面目な顔で顎に手をかけた。
「バカなこと言わないで。確率論よ」
「冷てぇ」と彼は口を尖らせたが、腰を屈めると私を覗き込んできた。
「なによ…」
ふいうちに見つめられ、私はたじろいだ。
「いんやぁ。今日はメイク薄めだね。でもやっぱりすっげぇ美人だなって思ってさ♪」
私は慌てて顔を手で隠した。
今日は萌羽と会うだけの予定だったし、出かけるときに時間もなかったからつい手抜きになってしまったことを恥じる。
「なんで隠すのよ~。地がいいんだから、もったいねぇって」
啓人は屈託なく笑った。
その子供のような笑顔にドキリと心臓が跳ねる。
家の前の細い通りを、近所の主婦が通りかかった。
ゴミ捨てのときにニ、三会話をする仲だ。
彼女は私に「こんにちは」と言い軽く頭を下げ、そしてちらりと啓人を見る。
違う意味で私の心臓がドキリと鳴った。
主婦が行ってしまうと、私は慌てて啓人の背中を押した。
「ちょっとここじゃまずいわ」
押されて啓人は黙って言われた通り歩き出す。
「ここもまずいんじゃないの?」
と啓人に言われて、私は彼を家の玄関口に押し入れたことに気付いた。



