その日夕貴は彼氏と別れ

傘も持たずに

彼のマンションを飛び出した


高校3年の夕貴だったが

彼は3歳年上で一人暮らしをしていた


大学を中退し

ショットバーでバイトをしながら

将来音楽の道で生きて行こうという

夢を持つ彼…


家庭の事情でそこでバイトを始めた

夕貴と知り合い

付き合うようになった


初めは夢を追う大人の彼に夢中だった

でも幸せな日々は長くは続かなかった


音楽活動をする彼らのバンドの周りには

常にスポンサーや女の影がちらついた


限界だった…


まだ17歳の夕貴には

大人の世界が理解できなかった


お金の関係が許せなかった


引き止めてくれない彼に愛想をつかし

勢いよく部屋を飛びだした




傘もささずにただ呆然と歩いていた

そこに拓が傘を差し出した



夜中心の生活をしていた夕貴には

拓の存在なんか知る由もなかった


(この傘どうしよう…)


顔も名前もわからない男の子



まだ新しくてブランド名の入ったその傘を

捨てる事も出来ず


夕貴は暫くその傘を見つめていた