信じられなかった。
めまいがする。
このひとは奏さんからわたしを引き剥がして―――。

逃げようとしたら脇腹に当てられたものが更に強く突きつけられた。


「逃がさないわよ。逃がすわけにはいかないの」

「そんなこと、やめて」

「仁にあなたを引き渡すのよ」

「いやっ、こんなことやめて!」

首を振る。

仁さんがこのひととこんな理不尽な取引きをするはずがない。
いつだって仁さんは榊さんと、奏さんのそばで笑っているわたしを見守ってくれていた。
奏さんを裏切るようなこと、そんなことをするわけがない。


「車を用意してあるの。地下の駐車場まで歩いて。早く!」


振り向くと突きつけられたものがチクリと腕に触れた。

―――ナイフ

わたしが驚いて目を上げると、

「わかったら、さっさと歩いて!」

にっこりと笑う彼女の目と合った。


助けて―――奏さん!!